教室日記vol.15
vol.14からの続きです。
いよいよファイルコンサートです。
この演奏会の会場はキジ=サラチーニ宮の一番広く(といっても客席は150名程度)絢爛豪華な部屋で、これまでチェリストで言えばG,カサド、A,ナヴァラはじめ他の楽器奏者ももちろん著名な演奏家がその腕前を披露した所です。
控え室等、ここを利用していたのかと思案するだけでも緊張しますし興奮もします。
今日はシューマンとメンデルスゾーンの両方を演奏しなければなりません。
体力、集中力共にこれまでの中で一番大事な一日です。
他の参加者の演奏もあるので間が空くため少しは回復出来るのですが、2曲演奏するのは私とヴィオラのリサだけ。
お互いに励まし合いながら何とか乗り切ろうと本番前に和みます。
面白いもので彼女とは最初の頃あまり馴染まなく、リハーサルでも「こうしようか?」と言っても「ノー!私はこう弾きたい!」という感じで、だったらこっちも好きにやろうかな。と適当に流してましたが、レッスンや幾つかのコンサートの中でお互いに演奏しながらコンタクトを取り、本番をこなす事で信頼関係が出来上がったような気がしていました。(リサがどう思っていたかは知りませんが)
本番でシューマンを弾きながら何故がキジアーナの学校の門からアパートへ帰る道沿いの風景がよぎり、こちらに来ていろんな事を思い出しながら演奏している自分に気付きます。
様々な出来事、思い出、知り合った仲間たち、シエナの人たち、風景がどんどん出て来ます。
そんなこんなで終楽章も終わってしまい、ふと現実に戻り目の前のお客さん達から拍手が送られます。
特に3楽章は先ほどの学校の前の坂道の風景が脳裏に浮かんで本当にこれで最後なんだな、と思う寂しさや憂いみたいな感情が滲んでいたようです。
しかし感傷に浸る間も無く少し休んでメンデルスゾーンです。
1楽章の冒頭から美しく、颯爽としたメロディで若い作曲家の順風満帆な才能を感じさせる曲想です。
転じて2楽章では敬虔な思いと少し陰鬱な感情が混じり合い、苦悩とそれを信仰で慰めるような深い曲で、3楽章では緊張感と技巧的な箇所が数多く見られそのモチーフが最終楽章でフーガとなり、まるで交響曲を連想させるが如く大団円で結実します。
大した事故も無く、メンバー皆も笑顔で終える事が出来ました。
聴衆も大興奮で「ブラビー!」とあちらこちらから聞こえてきます。
ああ、本当に終わってしまったんだな。
と嬉しいはずなのに、このメンバーで最後なのと日本に帰るのか、まだまだここに居たいな、と様々な思いが交差します。
次の日、まだ行ってなかったカンポ広場の観光名所のマンジャの塔に登ります。
およそ100mをエレベーター無しで階段のみです。(現在は世界遺産の規定で時間による人数制限があるのでご注意ください)
塔の頂上から見る風景は言葉で表せない素晴らしい景色です。はるか向こうまで緑一面のそれは、誰もが心を奪われるでしょう。
「こんな所だったんだ。」上空から見下ろすカンポ広場の美しさは勿論、その反対の自然の景色が対照的で最後になりこの街の奥深さに驚嘆します。
さあ日本に帰ります。
丁度、学校では芸術祭(芸祭と言います)の準備期間中で私が企画した弦楽合奏のリハーサルもそろそろ始めなければ…。
〈次回イタリア編最終回へ〉