教室日記vol.14
前回から(vol.13)の続きです。
パリオ祭も無事終わり、浮かれ気分から日常に戻ります。
そうこうしているうちに講習会も佳境に入り、室内楽レッスンを何度も経て先生のお墨付きをいただき、何回か演奏会に出演することとなりました。
ある日、田舎の教会でコンサートを行うのでマイクロバスで現地に行きます。皆でバスに乗って何処かへ出掛けるのは小学校の社会科見学みたいで幾つになっても楽しいものですね。
トスカーナの緑(オリーブ畑と葡萄畑の間に糸杉がそりたって本当に絵はがきの世界です)と抜けるような空の青さに心が奪われる感覚。
どの位時間が経ったのか覚えてない程素敵な、美しいバス旅です。
そして教会に到着。
またまたこれもなんとも言えない素敵な佇まいの教会です。
それからリハーサルをして思ったのが、やはり古い石造りの教会は響きが素晴らしいんです。
メンデルスゾーンのオクテットの第二楽章に美しいメロディの裏に音階を奏でる場面があるのですが、その雰囲気にピッタリというか(あ、でも逆ですよね。きっとこういった教会の素晴らしさに感動してメンデルスゾーンが書いたのかもしれません)本当に音楽と教会の清らかで慈しみ深い関係を感じ取れました。
いよいよ本番です。
初めての本番なので(リハーサルやレッスンでは止まってやり直す事がありますが)止まらない様にという緊張感と失敗しない様に、と萎縮してしまう自分がいます。
でもお客さんがすごく笑顔を見せて(日本だとお客さんの方がかしこまって、笑顔だと失礼なんじゃないかという感じですよね)今日を楽しみにして来てくれている。そんな雰囲気だったので、こちらはその気持ちに応えなければならないと。
無事に演奏を終えて、皆さん温かい拍手でした。
コンサートの後、教会の外で食事会となりました。
地元の美味しいワインと料理、それからオープンエアでの食事は最高のご褒美です。
またまた素晴らしい小旅行の一日でした。
その日にシエナに戻り、次の日学校でリハーサル。
するとアシスタントの方からメンデルスゾーンのメンバー全員にデュプロマ名誉賞が貰えると。
それからファイナルコンサートに出演して、しかもトリを飾るらしいと。
ビックリして、皆も喜んでより一層リハーサルに励みます。
それからシューマンのピアノ四重奏がデュプロマ特別賞という事も聞かされます!〈虹の効果なのか?〉
なんとこちらはスポンサーのシエナ銀行から100万リラが貰えるという!
なので1人あたり25万リラ!
「25万リラ!やった~!」と金持ちになった気分でしたが当時のリラはおよそ100リラ=7円ちょっと。
2万円しないくらいです。
でもすごく嬉しいし、2つも賞を頂けるなんて!
心の中で「アウレリオ、ありがとう!君が声を掛けてくれたおかげで」と感謝です。
なんとシューマンの方は受賞記念演奏会もあるのです。そこにはいろんな人(銀行のお偉いさんや市長、講習会の他のコースの先生方等々)が聴きに来るそうです。
またまた緊張しちゃいますよ、もうどうしよ~。
というのも束の間、その日となりました。
ブレンゴラ先生に言われた【ミカドのように】を思い出しながら第三楽章のメロディを演奏しなければ。
物凄いお客さんの数だったのは覚えていますが、自分の演奏を覚えてません!
終演後、隣に控え室があるのですが、全く見覚えのないおばさんが何人かでこちらに詰め寄って来ます。
そして「ブラビッシモ!」と言いながら私の頬にキスをしてきます!
エエ~ッ?!いきなりですよ!こちらは心の準備なしですからね!
でもなんだか見ず知らずのおばさんが感動してくれて、しかも楽屋にその気持ちを伝え、相手が東洋の島国から来た無名な学生なのに、と思うと恥ずかしいのと嬉しいのとあり、〈きっとこっちの人達は自分の感情に素直で温かい人なんだなぁ。〉と感じました。
後日、生まれて初めて小切手を受け取ります。しかも日本以外のです!
ちゃんとお金と交換出来るかな?
(続く)